昭和32年3月の「健康保険法」の改正によって保険財政は立ち直り、昭和36年度に政府管掌健康保険財政は290億円の積立金をもつようになり、昭和36年は7月と12月と2度も診療報酬の引き上げを行った。改定率は7月が12.5%、12月が2.3%という内容であった。しかし、診療報酬の2度の改定で保険料収入を上回る医療費の伸びが生じ、収支が逆転した。昭和37年度には16億円という単年度赤字が生じ、翌38年度には131億円、39年度には363億円の単年度赤字と深刻な事態に追い込まれた。日雇労働者健康保険、船員保険も同じ様相を呈した。 これは、医学医術の進歩以外に、再三にわたる医療費の値上げや、昭和38年度の「健康保険法」等の改正による療養の給付期間の制限の廃止や保険使用医薬品の制限緩和などのいわゆる制限診療撤廃が行われた結果、医療給付費の伸びが著しかったのに対し、保険料収入が伴わなかったことによるものであった。 社会保険医療の内容を医学や薬学の進歩に合わせて広げようと強力に推進したのは日本医師会(武見太郎会長)であった。昭和36年7月の保険医総辞退収拾の過程での合意に基づき、同年8月15日に医療問題懇談会が設置され、「医学、薬学の進歩は、速やかに医療保険に取り入れ、国民医療の水準の向上を期する。そのための措置として、療養担当規則、治療指針、使用基準などの改善及び適正な運用に特に。留意する」の一項がうたわれた。 そして、昭和37年9月「抗生物質の使用基準」が大幅に改正され、多くの新しい高価な抗生物質や副腎皮質ホルモン剤が保険に採用された。抗ガン剤4種もはじめて保険に入れられた。さらに、昭和38年6月に、「結核の治療指針」や「性病の治療指針」も全面改正され、薬剤の投与方法、術式の選択等に医療担当者の裁量の余地を従前に比し広く認めたこと等が特徴だった。 歯科の昭和36年7月改定(12.5%)については本年9月のマンスリートークで述べたが、今回は同年12月の2.3%の改定率の検証を行ってみる。検証には社会医療診療行為別統計(調査)が必要になり、今回は昭和36年(厚生省大臣官房統計調査部編集)のものを用いた。 社会医療診療行為別統計(調査)は、昭和34年から医療保険制度における医療の給付の受給者に係る診療行為の内容、調剤行為の内容、薬剤の使用状況等を明らかにし、医療保険行政に必要な基礎資料を得ることを目的として、毎年、6月審査分の状況を公表している。最近は、すべてのデーターはネットで公開されているが、古いデーターは国立国会図書館から入手できる。ちなみに、筆者はすべてのものをもっている。 昭和36年12月改定は改定率は2.3%とわずかであったが、基本診察料において、乳幼児(6歳未満−初診料加算5点)と深夜加算(午後10〜午前6時−21点)、補綴において有床義歯(+10~+60点)と線鉤(+2点)、バー(+5点)が増点となった。 検証結果を下の表に示すが、総点数1,184,752のところ29,621点の増点で改定率2.3%のところ影響率2.5%となったが、誤差の範囲内の数値である。最後に、社会保険歯科診療報酬点数表と昭和36年度の社会医療診療行為別調査を併せて示す。
参考文献 厚生省五十年史 財団法人厚生問題研究会 中央法規 昭和63年発行
日本歯科医師会
富山県歯科医師会
富山市歯科医師会
昭和32年3月の「健康保険法」の改正によって保険財政は立ち直り、昭和36年度に政府管掌健康保険財政は290億円の積立金をもつようになり、昭和36年は7月と12月と2度も診療報酬の引き上げを行った。改定率は7月が12.5%、12月が2.3%という内容であった。しかし、診療報酬の2度の改定で保険料収入を上回る医療費の伸びが生じ、収支が逆転した。昭和37年度には16億円という単年度赤字が生じ、翌38年度には131億円、39年度には363億円の単年度赤字と深刻な事態に追い込まれた。日雇労働者健康保険、船員保険も同じ様相を呈した。
これは、医学医術の進歩以外に、再三にわたる医療費の値上げや、昭和38年度の「健康保険法」等の改正による療養の給付期間の制限の廃止や保険使用医薬品の制限緩和などのいわゆる制限診療撤廃が行われた結果、医療給付費の伸びが著しかったのに対し、保険料収入が伴わなかったことによるものであった。
社会保険医療の内容を医学や薬学の進歩に合わせて広げようと強力に推進したのは日本医師会(武見太郎会長)であった。昭和36年7月の保険医総辞退収拾の過程での合意に基づき、同年8月15日に医療問題懇談会が設置され、「医学、薬学の進歩は、速やかに医療保険に取り入れ、国民医療の水準の向上を期する。そのための措置として、療養担当規則、治療指針、使用基準などの改善及び適正な運用に特に。留意する」の一項がうたわれた。
そして、昭和37年9月「抗生物質の使用基準」が大幅に改正され、多くの新しい高価な抗生物質や副腎皮質ホルモン剤が保険に採用された。抗ガン剤4種もはじめて保険に入れられた。さらに、昭和38年6月に、「結核の治療指針」や「性病の治療指針」も全面改正され、薬剤の投与方法、術式の選択等に医療担当者の裁量の余地を従前に比し広く認めたこと等が特徴だった。
歯科の昭和36年7月改定(12.5%)については本年9月のマンスリートークで述べたが、今回は同年12月の2.3%の改定率の検証を行ってみる。検証には社会医療診療行為別統計(調査)が必要になり、今回は昭和36年(厚生省大臣官房統計調査部編集)のものを用いた。
社会医療診療行為別統計(調査)は、昭和34年から医療保険制度における医療の給付の受給者に係る診療行為の内容、調剤行為の内容、薬剤の使用状況等を明らかにし、医療保険行政に必要な基礎資料を得ることを目的として、毎年、6月審査分の状況を公表している。最近は、すべてのデーターはネットで公開されているが、古いデーターは国立国会図書館から入手できる。ちなみに、筆者はすべてのものをもっている。
昭和36年12月改定は改定率は2.3%とわずかであったが、基本診察料において、乳幼児(6歳未満−初診料加算5点)と深夜加算(午後10〜午前6時−21点)、補綴において有床義歯(+10~+60点)と線鉤(+2点)、バー(+5点)が増点となった。
検証結果を下の表に示すが、総点数1,184,752のところ29,621点の増点で改定率2.3%のところ影響率2.5%となったが、誤差の範囲内の数値である。最後に、社会保険歯科診療報酬点数表と昭和36年度の社会医療診療行為別調査を併せて示す。
参考文献 厚生省五十年史 財団法人厚生問題研究会 中央法規 昭和63年発行