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2020年12月22日
令和2年12月院長のマンスリートーク◆新型コロナ対応民間臨調報告書(続)とGoTo歯医者
令和2年12月院長のマンスリートーク◆新型コロナ対応民間臨調報告書(続)とGoTo歯医者

 勝負の3週間に惨敗し、全国の感染者は1日当たり3,000人を超え医療機関がひっ迫してきている。日本の新型コロナウイルスによる死者は2千9百人を超えた。政府は「GoToトラベル」を全国で一時停止とした。国内での感染確認者は12月19日現在19万7,381人であるのに対し、世界では感染者が約7,574万人、死者は167万人と深刻な事態である。
 先月は10月25日に出された460ページを超える新型コロナ対応民間臨調報告書のことを書いた。今回はその続編を述べた上で新型コロナウイルス感染症の診療の手引きに触れ、歯科治療の重要性について考えてみる。


○新型コロナ対応民間臨調報告書(続)
 感染症危機管理のガバナンスを支えるインフラとして、法と組織に焦点を当てる。
 万一危機が到来する事態に備え、あらかじめどのような態勢を構築しておくのか。その危機への備えの態勢のことを一般に「プリペアドネス(Preparedness)」という。日本の感染症危機管理におけるプリペアドネスは、いくつかの感染症危機対応を実際に経験しながら発展してきた。
 感染症危機管理の法体系においては、感染症危機管理4法ともいえる①感染症法、②検疫法、③新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)、④予防接種法という4つの法律に加え、海外からの流入防止に重要な役割を果たす出入国管理及び難民認定法(入管法)や、感染症危機管理の国際法基盤である国際保健規則(IHR:lnternational Health Regulations)も重要な機能を有している(図1)。

 日本の感染症危機管理は、感染症法に基づく体制を第一の基盤として実施され、その目的は、感染症の発症の予防及びその蔓延の防止を図り、公衆衛生の向上及び増進を図ることである。
 感染症法は、感染症を一類感染症〜五類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症と分類して規定している。既知の感染症をその感染力及び罹患した場合の重篤性等から判断した危険性の程度に応じて、最も危険な一類から、相対的に危険が高くない五類まで段階的に分類することで、危険度に応じて実行できる対策に違いを設けている。例えば、その分類毎に、特定、第一種又は策二種感染症指定医療機関として定める医療機関における入院医療提供体制を規定している(表1)。

 影響分野が様々な省庁の所管領域に及ぶ感染症危機管理では、内閣官房が政府全体の政策の総合調整を行い、その下で、厚労省を中心として検疫所・感染研・保健所・地衛研・医療機関といった各機関の執行体制が敷かれている。内閣官房と厚労省の役割の違いは、政策の省庁間総合調整と企画立案執行という機能面以外に、前者が特措法、後者が感染症法・検疫法・予防接種法という所管法律面にも表れる(図2)。

 「備え」(プリペアドネス)としてのベストプラクティスとして最も注目すべきものは、2009年の新型インフルエンザパンデミックを踏まえ、特措法を制定していたことである。これがなければ、おそらく新型コロナウイルス感染症対応のために一定時間を費やして新たな立法を行う必要が生じ、政府の対応は更に後手に回っていただろう。
 2015年の韓国のMERSを対岸の火事としてしまったことは残念であった。今回の新型コロナウイルス感染症でも、他国、特に対策に成功したアジア太平洋地域の国々に学ぶ姿勢が重要だろう。
 次に、感染症や特措法における国から地方への指揮権限の弱さや、特措法が規定する公衆衛生措置の程度が「要請」ベースの弱いものしか整備されていなかった点は、プリペアドネス上の課題であった。より病原性が高い感染症危機が到来する前に、実質的な強化方法を検討せねばなるまい。
 更に、感染研・保健所・地衛研の予算・人員の長年に渡る縮小は、2009年以来幾度もその問題性が指摘されていたにもかかわらず、その後も悪化の一途を辿った。地衛研の法的基盤が未整備である状態も含め、早急に改善する必要がある。感染症危機管理の最後の砦である医療機関の脆弱な財政基盤への対策も急務だ。感染症危機管理の最前線を担うこれらの機関に対しては、根本から政策アプローチや予算措置を考え直さねばならないだろう。


○新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引きより
 以下に、重症度分類および重症度別の支持療法について記載する。なお、感染症病床で重症例の治療を実施できない場合には、集中治療室(ICU)などの別の病床、あるいは他医療機関への転院を含めて、都道府県や管轄保健所と相談する(表2)。

・COVID-19で死亡する症例は、呼吸不全が多いために重症度は呼吸器症状(特に息切れ)と酸素化を中心に分類した。
・SpO2を測定し酸素化の状態を客観的に判断することが望ましい。
・呼吸不全の定義はPaO2≦60mmHgでありSpO2≦90%に相当するが、SpO2は3%の誤差が予測されるのでSpO2≦93%とした。
・肺炎の有無を把握するために、院内感染対策を行い、可能な範囲で胸部CTを撮影することが望ましい。
・軽症であっても、症状の増悪、新たな症状の出現に注意が必要である。
・ここに示す重症度は中国や米国NIHの重症度とは異なっていることに留意すること。
(軽症)
 軽症は特別な医療によらなくても、経過観察のみで自然に軽快することが多い。内服による解熱薬や鎮咳薬などの対症療法は、必要なときにのみ行う。飲水や食事が可能なら、必ずしも輪液は必要ない。ただ、診察時は軽症と判断されても、発症2週目までに急速に病状が進行することがある。病状悪化はほとんどの場合、低酸素血症の進行として表れる。高齢者、基礎疾患(糖尿病・心不全・COPD・高血圧・がん)、免疫抑制状態、妊婦などのリスク因子がある場合、病状が進行する可能性を想定して入院とする。
 軽症患者は発症前から感染性があるため、人との接触はできるだけ避けること。同居家族がいる場合には生活空間を分けること。マスク着用や手洗いの励行を指導する。
(呼吸不全のない中等症)
 中等症は入院して加療を行う。目的は対症療法とともに、さらなる増悪を防止、また早期に対応するためである。入院加療に際しては、隔離された患者の不安に対処することも重要である。呼吸不全がない中等症は、安静にし十分な栄養摂取が重要である。また、脱水に注意し水分を過不足なく摂取させるよう留意する。また、バイタルサインおよび酸素飽和度(SpO2)を1日3回程度測定する。低酸業血症を呈する状態に進行しても呼吸困難を訴えないこともある。一般血液・尿検査・生化学検査・血清検査・凝固関連・血液培養などを必要に応じて行う。リンパ球数の低下、CRP、フェリチン、Dダイマー、LDH、KL-6などの上昇は重症化あるいは予後不良因子として知られている。
(重症度)
 COVID-19の肺炎はL型(比較的軽症)とH型(重症)に分類される。いずれも高めのPEEPを要するが、呼吸療法や鎮静の対応が異なる。一部L型からH型へ移行するが、移行したことの判定が難しい。適切な対応には、集中治療の専門知識と監視体制が不可欠。


○トラベルよりイートよりGoTo歯医者
 12月20日発行の「サンデー毎日」におもしろい記事が載っていたので紹介する。
 本格的な冬の訪れとともに新型コロナウイルス感染症が再び猛威をふるい、GoToトラベルもイートも混乱を極めている。だが、ぜひ出かけてほしい場所がある。歯医者だ。放っておけば口内の歯周病菌や虫歯菌などが新型コロナ感染症を誘引し、重症化にも繋がるという。
 新型コロナ感染症の肺炎は、季節性インフルエンザなどと同様に、次の3つのパタ−ンに分けられる。
①原発性新型コロナウイルス肺炎=新型コロナウイルスそのものが原因となって起こる肺炎
②新型コロナウイルスと細菌による混合性肺炎=ウイルス感染と同時に、細菌感染も併発した肺炎。
③2次性細菌性肺炎=ウイルス感染症が軽快した後に、損傷を受けた肺や気管支に細菌が感染することで起きる2次感染。
②と③の細菌性肺炎を起こしているのが、口腔内の虫歯菌や歯周病菌を含む細菌である。 新型コロナウイルスには王冠に似た形の突起があり、それが人間のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体に結合することで体内に侵入する。この受容体ACE2は口腔や舌の上皮細胞に多く存在し、それゆえウイルスが繁殖しやすい。歯周病などの炎症があると、本来は細胞の膜に覆われているACE2受容体が露出した状態になるため、より感染しやすくなる。さらに、歯周病菌はサイトカインストーム(免疫暴走)を誘引し、肺炎を重症化させ、人を死に至らしめることもある。
 鶴見大学歯学部花田教授によると、2009年に世界的に流行したH1N1インフルエンザのパンデミックでは、全死亡数の最大34%がウイルスと細菌の同時感染によるものだった。肺炎の重症化に、細菌がいかに関与しているかを示すデータである。
 ウイルスや細菌が増殖する場所である口腔内を健全に保つことが、コロナ禍の冬を乗り切るための必須の条件である。
 トラベルよりイートよりGoTo歯医者。まさに、至言だ。信じるものこそ救われる。

   


当院の特徴紹介
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