一向に新型コロナウイルスの感染が収束しない中、お盆休みが終わった。 先月は、厚生労働省が発表した新型コロナウイルス感染症拡大防止のための緊急事態宣言が出されていた令和2年4月の病院と診療所の診療報酬収入が前年同月比13.0%減少していたことや、日本医師会の中川俊男会長が、7月15日の会見で「もうすぐ5月の結果が出るが、5月は4月よりもっと減っている」と述べ、このままでは医療機関が秋までもたないとして、公的支援を訴えていることを書いた。 今月は、国保中央会や日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人会が全国の病院の経営状態を調べた調査結果等から新型コロナによる医療崩壊は防げるか考えてみたい。 国保中央会が、7月30日に公表した3月と4月診療分の医療費(速報)によれば、新国保(都道府県、市町村)は3月が前年同月比▲2.2%の8,522億円、4月は前年同月比▲9.5%の7,848億円と減少していた。また、後期高齢者では3月が前年同月比+1.2%の14,260億円、4月は前年同月比▲6.4%の13,205億円であった(表1)。 4月の新国保の1人あたり医療費は29,255円で▲6.3%(入院▲3.9%、入院外が▲10.5%、歯科が▲16.9%、調剤が0.0%)と大幅に減少した。患者減少から1人あたり日数が▲15.8%となったことが影響。反対に、1日あたり医療費は+11.3%と高めに伸びた。感染を恐れた患者の受診控えが顕著に表れたが、診療種類別にみると、一番影響を受けたのが歯科、次に入院外、そして入院、調剤の順となる。診療科別では、耳鼻咽喉科、小児科、歯科で大きく減少した。 一方、4月の後期高齢者の1人あたり医療費は73,194円で▲7.8%(入院▲7.2%、入院外が▲11.5%、歯科が▲18.5%、調剤が▲1.9%)と大幅に減少した。患者減少から1人あたり日数が▲14.5%となったことが影響。歯科は減少率が2割を超えた。反対に、1日あたり医療費は+7.8%と高めに伸びた。傾向的には新国保の結果と同じ(表2)。 さらに、6月の審査支払業務統計(5月診療分)によると、国保の医療費(確定点数)は、▲14.1%、後期高齢者は▲9.9%で4月よりもさらに大きなマイナスになっていた。5月の国保の医療費(確定点数)は▲14.1%の7,630億円、入院が▲12.5%、入院外が▲16.8%、歯科が▲12.7%、調剤が▲10.4%となった。一方、後期高齢者の医療費(確定点数)は▲9.9%の12,565億円で、入院が▲9.2%、入院外が▲11.6%、歯科が▲22.2%、そして調剤が▲7.2%と新型コロナの影響で減少が大きかった(表3)。 国保以外をみると、令和2年5月の組合管掌保険の医療費は3,070億円で、前年同月比▲16.48%で、国保より下げ幅が大きかった。延べ日数に関しては、入院が▲15.5%、入院外が▲28.4%、歯科が▲16.6%、調剤が▲27.2%であった。歯科の減少率は国保と似ているが、入院、入院外、調剤は組合員が若い分だけ、国保より減少率が大きくなっている。要するに、このコロナ禍、患者の受診控えが国保より顕著である。今後も、この傾向が続きそうである。 支払い基金のデータによれば、4月の確定点数は対前年度比、入院が▲7.3%、入院外が▲16.9%、歯科が▲13.3%、調剤が▲5.3%で、5月は入院が▲9.7%、入院外が▲18.3%、歯科が▲10.0%、調剤が▲9.6%であった(昨年5月は連休が長かったので、実態としては、入院以外は出ている数値より厳しい)。 日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人会が全国の病院の経営状態を調べたところ、回答の有った1,459病院のうち、6月で7割の病院が赤字、新型コロナの患者を受けいれた病院に限れば8割以上が赤字であった。赤字を作った要因として、延べ外来患者数が前年同月比で4月が19%、5月が24%、6月が7%の減であったこと、延べ入院患者数が4月が10%、5月が14%、6月が11%の減であったことが上げられる。緊急以外の手術も控えられた。手術件数は4月が15%、5月が30%、6月が11%の減で、その結果、病床利用率も4月が6.6%、5月が9.1%、6月が7.1%の減であった。患者は徐々に戻りつつあるが、まだまだ受診控えがある。病院の経営状況の悪化は深刻で、適切な対応がなければ経営破綻し、地域医療が崩壊する危険性がある。 全国医学部長病院長会議が6月、国公私立大学82校の分院を含む136付属病院を対象に実施した調査では、経営状況を回答した133病院で4月に191億円、5月に122億円の赤字であった。延べ外来患者数は前年同月比で4月が21%、5月が27%の減となった。なかでも、初診患者数が4月が40%、5月が45%減少していた。延べ入院患者数は4月が14%、5月が20%の減、手術件数は4月が19%、5月が31%の減、病床利用率は4月が11.6%、5月が16.4%の減であった。全国医学部長病院長会議は、「体制が縮小したままでは医療崩壊につながりかねない。国の支援が大学病院の機能回復・維持に十分生かされることを願う」とコメントを発表した。 4〜5月に、コロナ患者の受け入れの有無にかかわらず、200~399床以上の病院は平均1億~1.3億円以上、400床台は1.7億円、500床以上の病院は平均3億円以上もの入院収益減に見舞われた。半端な数字でない。1つのICUにつき1日30万円、1つの重症者病床につき1日5万円の補助金では全く割に合わないので、コロナ受け入れを渋る病院が増えている。民間信用調査機関の帝国データバンクによれば、7月、岡山県真庭市の整形外科病院が、外出自粛の影響で患者が減り、自己破産を申請した。7割の病院は新型コロナ対応で損失を出し続けており、診療報酬の一時的な引き上げなど国がすぐに病院救済に動くべきではないか。9月以降、危ない民間病院が多く出てくると言われている。病院がなくなって地域医療が崩壊すれば、2ー3年かかるといわれる新型コロナ対策もお手上げになる。 政府は医療機関の医療崩壊を回避するため第2次補正予算を成立させた。新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業や、感染拡大防止対策や診療体制確保等に要する費用の補助等が関係するが、これで医療崩壊は防げない。政府は官民ファンド「地域経済活性化支援機構」(REVIC)を通じて、コロナ禍で経営が逼迫している医療機関の支援に乗り出すというが、現場の実態とかみ合っていなという指摘がある。一番必要なのは、経営コンサルタントではなく、経営悪化をしのぐための資金である。 このまま受診抑制が続くと、今後、資金繰りに行き詰まる病院・診療所が相次ぐ可能性がある。国民皆制度を維持するためにも、コロナ患者を受け入れる医療機関だけでなく、医療全体に目配りした実効性のある対策(資金)が求められる。 歯科の落ち込みもひどいが、日本歯科医師会は日本医師会ほど目立った動きを見せていない。歯科もこのまま行くと、相当やばいことになりそうである。
日本歯科医師会
富山県歯科医師会
富山市歯科医師会
一向に新型コロナウイルスの感染が収束しない中、お盆休みが終わった。
先月は、厚生労働省が発表した新型コロナウイルス感染症拡大防止のための緊急事態宣言が出されていた令和2年4月の病院と診療所の診療報酬収入が前年同月比13.0%減少していたことや、日本医師会の中川俊男会長が、7月15日の会見で「もうすぐ5月の結果が出るが、5月は4月よりもっと減っている」と述べ、このままでは医療機関が秋までもたないとして、公的支援を訴えていることを書いた。
今月は、国保中央会や日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人会が全国の病院の経営状態を調べた調査結果等から新型コロナによる医療崩壊は防げるか考えてみたい。
国保中央会が、7月30日に公表した3月と4月診療分の医療費(速報)によれば、新国保(都道府県、市町村)は3月が前年同月比▲2.2%の8,522億円、4月は前年同月比▲9.5%の7,848億円と減少していた。また、後期高齢者では3月が前年同月比+1.2%の14,260億円、4月は前年同月比▲6.4%の13,205億円であった(表1)。
4月の新国保の1人あたり医療費は29,255円で▲6.3%(入院▲3.9%、入院外が▲10.5%、歯科が▲16.9%、調剤が0.0%)と大幅に減少した。患者減少から1人あたり日数が▲15.8%となったことが影響。反対に、1日あたり医療費は+11.3%と高めに伸びた。感染を恐れた患者の受診控えが顕著に表れたが、診療種類別にみると、一番影響を受けたのが歯科、次に入院外、そして入院、調剤の順となる。診療科別では、耳鼻咽喉科、小児科、歯科で大きく減少した。
一方、4月の後期高齢者の1人あたり医療費は73,194円で▲7.8%(入院▲7.2%、入院外が▲11.5%、歯科が▲18.5%、調剤が▲1.9%)と大幅に減少した。患者減少から1人あたり日数が▲14.5%となったことが影響。歯科は減少率が2割を超えた。反対に、1日あたり医療費は+7.8%と高めに伸びた。傾向的には新国保の結果と同じ(表2)。
さらに、6月の審査支払業務統計(5月診療分)によると、国保の医療費(確定点数)は、▲14.1%、後期高齢者は▲9.9%で4月よりもさらに大きなマイナスになっていた。5月の国保の医療費(確定点数)は▲14.1%の7,630億円、入院が▲12.5%、入院外が▲16.8%、歯科が▲12.7%、調剤が▲10.4%となった。一方、後期高齢者の医療費(確定点数)は▲9.9%の12,565億円で、入院が▲9.2%、入院外が▲11.6%、歯科が▲22.2%、そして調剤が▲7.2%と新型コロナの影響で減少が大きかった(表3)。
国保以外をみると、令和2年5月の組合管掌保険の医療費は3,070億円で、前年同月比▲16.48%で、国保より下げ幅が大きかった。延べ日数に関しては、入院が▲15.5%、入院外が▲28.4%、歯科が▲16.6%、調剤が▲27.2%であった。歯科の減少率は国保と似ているが、入院、入院外、調剤は組合員が若い分だけ、国保より減少率が大きくなっている。要するに、このコロナ禍、患者の受診控えが国保より顕著である。今後も、この傾向が続きそうである。
支払い基金のデータによれば、4月の確定点数は対前年度比、入院が▲7.3%、入院外が▲16.9%、歯科が▲13.3%、調剤が▲5.3%で、5月は入院が▲9.7%、入院外が▲18.3%、歯科が▲10.0%、調剤が▲9.6%であった(昨年5月は連休が長かったので、実態としては、入院以外は出ている数値より厳しい)。
日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人会が全国の病院の経営状態を調べたところ、回答の有った1,459病院のうち、6月で7割の病院が赤字、新型コロナの患者を受けいれた病院に限れば8割以上が赤字であった。赤字を作った要因として、延べ外来患者数が前年同月比で4月が19%、5月が24%、6月が7%の減であったこと、延べ入院患者数が4月が10%、5月が14%、6月が11%の減であったことが上げられる。緊急以外の手術も控えられた。手術件数は4月が15%、5月が30%、6月が11%の減で、その結果、病床利用率も4月が6.6%、5月が9.1%、6月が7.1%の減であった。患者は徐々に戻りつつあるが、まだまだ受診控えがある。病院の経営状況の悪化は深刻で、適切な対応がなければ経営破綻し、地域医療が崩壊する危険性がある。
全国医学部長病院長会議が6月、国公私立大学82校の分院を含む136付属病院を対象に実施した調査では、経営状況を回答した133病院で4月に191億円、5月に122億円の赤字であった。延べ外来患者数は前年同月比で4月が21%、5月が27%の減となった。なかでも、初診患者数が4月が40%、5月が45%減少していた。延べ入院患者数は4月が14%、5月が20%の減、手術件数は4月が19%、5月が31%の減、病床利用率は4月が11.6%、5月が16.4%の減であった。全国医学部長病院長会議は、「体制が縮小したままでは医療崩壊につながりかねない。国の支援が大学病院の機能回復・維持に十分生かされることを願う」とコメントを発表した。
4〜5月に、コロナ患者の受け入れの有無にかかわらず、200~399床以上の病院は平均1億~1.3億円以上、400床台は1.7億円、500床以上の病院は平均3億円以上もの入院収益減に見舞われた。半端な数字でない。1つのICUにつき1日30万円、1つの重症者病床につき1日5万円の補助金では全く割に合わないので、コロナ受け入れを渋る病院が増えている。民間信用調査機関の帝国データバンクによれば、7月、岡山県真庭市の整形外科病院が、外出自粛の影響で患者が減り、自己破産を申請した。7割の病院は新型コロナ対応で損失を出し続けており、診療報酬の一時的な引き上げなど国がすぐに病院救済に動くべきではないか。9月以降、危ない民間病院が多く出てくると言われている。病院がなくなって地域医療が崩壊すれば、2ー3年かかるといわれる新型コロナ対策もお手上げになる。
政府は医療機関の医療崩壊を回避するため第2次補正予算を成立させた。新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業や、感染拡大防止対策や診療体制確保等に要する費用の補助等が関係するが、これで医療崩壊は防げない。政府は官民ファンド「地域経済活性化支援機構」(REVIC)を通じて、コロナ禍で経営が逼迫している医療機関の支援に乗り出すというが、現場の実態とかみ合っていなという指摘がある。一番必要なのは、経営コンサルタントではなく、経営悪化をしのぐための資金である。
このまま受診抑制が続くと、今後、資金繰りに行き詰まる病院・診療所が相次ぐ可能性がある。国民皆制度を維持するためにも、コロナ患者を受け入れる医療機関だけでなく、医療全体に目配りした実効性のある対策(資金)が求められる。
歯科の落ち込みもひどいが、日本歯科医師会は日本医師会ほど目立った動きを見せていない。歯科もこのまま行くと、相当やばいことになりそうである。