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2018年8月17日
平成30年8月院長のマンスリートーク◆歯科医療・口腔保健のエビデンス
平成30年8月院長のマンスリートーク◆歯科医療・口腔保健のエビデンス
最近、全身と口腔に関連するいろいろなエビデンスが出てきて、歯科医療の有用性が社会に認知されつつあるが、今月は、2015年に日本歯科医師会がまとめた「健康長寿社会に寄与する歯科医療・口腔保健のエビデンス」から課題別にエビデンスをまとめてみた。
1.加齢に伴う変化及び老化について
咬合、咀嚼、唾液分泌、構音機能、嚥下機能などすべての口腔機能が相互に影響をしあいながら低下することが確認できた。また、口腔機能低下は、認知症や全身的な疾患あるいは運動機能、生活機能とも密接に関連していることが確認できた。
口腔の器質的変化は口腔の機能に影響を及ぼすこと、高齢者における口腔疾患、そして、口腔保健行動や生活習慣が特異的な変化を示してきており、これに応じた対策が必須であることが明らかとなった。
2.寿命
歯数保持によって、寿命を延伸するエビデンスが示されている。歯の喪失後の義歯の装着による生命予後の改善は、ハザード比が約1.3であった。また、歯数と死因との関係では、CVD(心血管疾患)との関連を示す報告が複数得られている。
咀嚼機能及び咬合状態と寿命との関連では、咀嚼機能が高い者ないし咬合状態が安定して臼歯部で噛めている者は全身の健康状態も良好であり、死亡リスクが有意に低い。また、咀嚼状態とCVD(心血管疾患)による死亡との関連が報告されている。
規則的な口腔ケアの習慣を有する者ほど長寿であることを示した報告がある。
3.口腔保健と生活習慣病、非感染性疾患(NCDs)
非感染性疾患(NCDs)のリスク因子との関係では、歯周病をはじめとする口腔保健状態は、喫煙、飲酒、運動、食生活のそれぞれと関連性が認められる。特に、喫煙が歯周健康状態に及ぼす影響は明らかであった。
1)糖尿病
糖尿病は口腔内の疾患に影響を与え、特に歯周病は糖尿病と密接に関連することから、歯科医師が糖尿病の改善に寄与できる可能性が示された。更なる医科・歯科連携の促進が求められる。
2)肺炎等呼吸器疾患
口腔ケアが高齢者の誤嚥性肺炎予防に繋がることは、既に社会的に支持されているものの、その根拠となる無作為比較対照試験(RCT)研究は一つしかなく、より計画されたRCT研究の蓄積が求められる。−方で、口腔ケアが人工呼吸器関連肺炎予防に繋がることは、十分なエビデンスレベルにある。
3)がん
がん治療開始前から行われる適切な口腔衛生管理は、口腔有害事象の発症リスクの軽減や、その重症度の軽減に有用であるというエビデンスがある。
4)循環器疾患(心臓血管疾患、脳血管疾患)
歯周病と循環器疾患の関連性が認められている。また、歯周病を有する者の循環器疾患に対する相対危険度は、対象を65歳以下に限った場合に上昇することや、急性心筋梗塞の方が慢性の冠動脈疾患よりも歯周病との関連性が強いこと、全身的な細菌感染を伴う歯周病の罹患は冠動脈疾患のリスクを高めるといった新たな知見も得られている。
5)メタボリックシンドローム(肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病)
メタボリックシンドロームの者では歯周病のリスクが高く、また歯周病の者にメタボリックシンドロームが多い結果が示されているが、多くは横断研究によるものであった。肥満は、糖尿病や動脈硬化性疾患の重要なリスク因子である。また多くの研究は、肥満が歯周病とも関連していることを報告しており、特に内蔵脂肪型肥満が歯周炎と強く関連してことが示されている。
6)非感染性疾患のリスクファクター(喫煙、過度の飲酒、運動不足、食習慣)と口腔保健
口腔保健状態は、喫煙、飲酒、運動、食生活のそれぞれと関連性が認められる。特に、喫煙が歯周健康状態に及ぼす影響は明らかだった。
運動習慣のある者や、健康に良いといわれる食品・栄養素を摂取する者の歯周健康状態は良好な傾向にあった。
4.要介護状態を引き起こす主な原因疾患
口腔の健康は会話や顔の外見・笑顔、食事の機能を通じて、友人との交流やそのための外出といった社会的活動に影響する。高齢者の社会参加は要介護状態発生を予防することが報告されており、社会的側面からも口腔の健康状態が重要な役割を果たしている可能性がある。
具体的なエビデンスとしては、義歯の利用も含む良好な口腔の健康状態は、将来の要介護状態発生が低いことと関連していた。今後、高齢者の口腔の健康を維持する保健医療介入を更に普及させることにより、要介護状態の発生率を低下させられる可能性がある。
1)脳卒中
若年層や歯牙の欠損が多い集団、アタッチメントロスや歯周ポケットの深さが大きい場合に脳卒中のリスクが上昇するとの報告が認められた。さらに、出血性脳卒中よりも非出血性(虚血性)脳卒中の方が.歯周病との関連性が強いことも挙げられている。
2)認知症
認知症発症や認知機能低下に関連するとされる口腔内状態等として、口腔衛生状態、歯周病、歯数、咬合、咀嚼、かかりつけの歯科医院の有無及び歯科受診が報告されていた。
3)転倒・骨折
咬合支持の喪失や歯を失った後に義歯を使用しないことがその後の転倒リスクとなることを示していた。また、歯周病に罹患していることや歯数の少ないことがその後の大腿骨頸部骨折のリスクを上昇させることも明らかにされていた。
4)関節疾患
歯周病と関節リウマチは関連があり、歯周病を予防・治療することで関節リウマチの症状のいくつかを改善できることが示された。
5.運動・栄養・休養・コミュニケーション及びQOL
平衡機能、下肢の筋力、上肢の筋力は咬合及び咀嚼能力と関連があり、咬合状態の悪化は平衡機能や下肢筋力の経年的な悪化に影響を及ぼすことが示された。
口腔の健康と休養・コミュニケーション及びQOLの関連について検討した結果、口腔の健康と健康関連QOLの間に有意な関連が認められ、口腔の健康の維持・増進はQOL向上に寄与することが示された。
6.口腔保健と社会的決定要因
所得や教育歴が高いほど口腔保健状態や行動が良いという健康格差が確認された。健康格差は疾病の治療の格差だけでなく、疾病発生の格差によるところが大きい。社会の健康を増進するためには、患者の背景に存在する健康の社会的決定要因を考慮した方法が必要である。
7.歯科医療の効果
歯科医療の口腔機能改善効果としては、歯の欠損に対する歯科補綴治療により咀嚼が回復し、咀嚼能力を高めることで、全身的な課題にも大きく貢献できること、咀嚼ができないくらいに口腔機能が低下した患者には、専門的ケアを提供することで、改善が図れるこ
とのエビデンスを確認した。
歯科健康教育に関連するフツ化物局所応用としてフツ化物配合歯磨剤とフッ化物洗口があり、いずれも若年者の乳歯と永久歯のう蝕予防に効果的であることが示されていた。
歯科健康教育は対象者における知識の獲得と態度の変化を促す効果があり、う蝕、歯垢付着及び歯周病の予防や改善にある程度の効果があることが明らかになった。ただし、それらの効果で確認できたのは6カ月以下の短期的なものが多く、長期的な効果については不明である。歯科医療従事者は、歯科健康教育が6カ月以下の短期的には効果的であることを理解し、歯科保健指導を行うべきである。
施設等において、定期的に歯科職種が実施する専門的口腔ケアにより、細菌数の減少のみならず、期間中の肺炎発症率や発熟日数及び認知機能の改善に寄与することが明らかとなった。
8.結論
健康な長寿社会を現実的なものとするための具体的な対策には、(1)寿命の延伸と早世予防(主な死因となる疾患の予防)、(2)要介護状態の予防、(3)老化によ生活機能低下の防止、(4)ライフコースアプローチの観点からの生涯にわたる健康増進が重要である。具体的な実践例の蓄積と、健康施策にできるところから位置づけると共に、因果関係や医療経済的効果を示すエビデンスの蓄積が必要である。
最後に、深井穫博氏の歯科医療・口腔保健と健康寿命の概念的パスウェイの図を示す。
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